チームで失敗を深掘り:なぜなぜ分析と特性要因図による根本原因特定
チームの失敗、表面的な対策で終わっていませんか
チームで何かに挑戦する際、失敗は避けて通れない要素です。しかし、失敗が発生した際にその場で応急処置をするだけで、根本的な原因にまで踏み込まずに次の活動に移ってしまうケースは少なくありません。表面的な対策は一時的な効果をもたらすかもしれませんが、同じ種類の失敗が再発するリスクを完全に排除することは困難です。
チームの成長には、失敗から学び、次に活かすための体系的なプロセスが不可欠です。特に、失敗の「なぜ」を深く掘り下げ、真の根本原因を特定することは、持続的な改善を実現する上で極めて重要になります。
ここでは、チームで失敗の根本原因を効果的に特定するための具体的な手法として、「なぜなぜ分析(5 Whys)」と「特性要因図(Ishikawa図)」に焦点を当て、その活用方法やチームでの実践におけるポイントを解説します。
根本原因特定の手法:なぜなぜ分析(5 Whys)
なぜなぜ分析は、問題や失敗が発生した際に、「なぜ?」という問いを5回程度繰り返すことで、事象の表面的な原因だけでなく、その背後にある真の根本原因に迫ろうとする手法です。トヨタ自動車の生産方式の中で発展したことで知られています。
なぜなぜ分析の手順とメリット・デメリット
- 問題の明確化: どのような失敗や問題が発生したのかを具体的に記述します。
- 「なぜ?」を繰り返す: 発生した問題に対して「なぜそれが起きたのか?」と問いかけ、その答えに対してさらに「なぜ?」と問いかけを繰り返します。これを原因が尽きるまで、または本質的な要因が見えてくるまで続けます。目安として5回程度と言われますが、回数自体に厳密な意味はありません。
- 根本原因の特定: なぜなぜを繰り返す中でたどり着いた最も深いレベルの要因を、根本原因として特定します。
メリット: * シンプルで理解しやすく、特別な知識がなくても始められます。 * 原因と結果の因果関係を明確にできます。 * 個人でもチームでも比較的容易に実施できます。
デメリット: * なぜなぜを繰り返す中で、分析者の主観や知識の範囲に影響されやすい側面があります。 * 複数の原因が絡み合っている複雑な問題に対しては、単一の因果関係を追うだけでは不十分になる可能性があります。 * 表面的な原因で思考が止まってしまい、真の根本原因にたどり着けないことがあります。
チームでのなぜなぜ分析実践ポイント
チームでなぜなぜ分析を行う際は、参加者全員が自由に意見を出し合える雰囲気づくりが重要です。特定の個人を責めるのではなく、「何が起きたか」と「なぜ起きたか」に焦点を当てます。
- 問いかけの質の向上: 「なぜ」の問い方を工夫し、より具体的な思考を促します。「なぜ遅れたのか?」ではなく「なぜあのプロセスで想定より時間がかかったのか?」のように具体化します。
- 協力的な姿勢: 原因特定は課題解決のためであり、犯人探しではないという共通認識を持ちます。
- 多角的な視点: 一つの原因に行き着いても、他の可能性はないか、別の視点から見るとどうかなどを検討します。
- 停止基準の確認: どこまで掘り下げるかを事前に、あるいは途中でチームとして合意します。対策可能なレベルの要因か、組織文化やシステムといったより高次の要因かなどを判断します。
根本原因特定の手法:特性要因図(Ishikawa図)
特性要因図は、ある「特性」(結果や問題)に対して影響を与える可能性のある「要因」を体系的に整理し、図式化する手法です。魚の骨のように見えることから「魚骨図」とも呼ばれます。問題の潜在的な原因を網羅的に洗い出すのに役立ちます。
特性要因図の手順とメリット・デメリット
- 特性(結果)の定義: 図の頭(魚の頭の部分)に、分析対象となる失敗や問題を明確に記述します。
- 大骨の設定: 特性に影響を与えると考えられる主要な要因カテゴリをいくつか設定し、そこから太い矢印(大骨)を引きます。ビジネスにおける問題では、「人 (Man)」「方法 (Method)」「設備 (Machine)」「材料 (Material)」「測定 (Measurement)」「環境 (Environment)」といった「6M」のフレームワークがよく用いられます。
- 中骨・小骨の追加: 各大骨に対して、「なぜその大骨が特性に影響するのか?」と考え、具体的な要因(中骨)を洗い出します。さらにその中骨に対して、さらに詳細な要因(小骨)を洗い出し、関連する骨から矢印を引いていきます。ブレインストーミング形式で、考えられる要因を網羅的に書き出します。
- 要因の深掘り: 書き出した要因の中から、特に影響が大きいと考えられるものを特定し、さらに深掘りして根本原因に迫ります。ここでは、特定した要因に対してなぜなぜ分析を適用することも有効です。
メリット: * 問題の原因を網羅的かつ体系的に整理できます。 * 複数の原因が複雑に絡み合った問題の分析に適しています。 * 視覚的に分かりやすく、チームでの情報共有や議論を促進します。 * 原因間の関連性を整理しやすい側面があります。
デメリット: * 要因の洗い出しに時間がかかる場合があります。 * 洗い出した要因の中から重要なもの、根本的なものを見極める判断力が必要です。 * 適切な要因カテゴリを設定しないと、効果的な分析ができません。
チームでの特性要因図実践ポイント
特性要因図は、チームでの共同作業に非常に適したツールです。多様な視点を取り入れることで、より網羅的で深い分析が可能になります。
- 参加者の選定: 問題に関係する多様な立場のメンバーに参加してもらうことで、幅広い要因を洗い出せます。
- ブレインストーミングの活用: 大骨・中骨・小骨の洗い出しは、自由な発想を促すブレインストーミング形式で行います。批判をせず、量より質を重視します。
- 付箋などの活用: 付箋に要因を書き出し、図の上に貼り付けて整理していくと、視覚的に分かりやすく、修正も容易です。
- 深掘りの徹底: 要因を洗い出すだけでなく、それぞれの要因がなぜ問題につながるのかを問いかけ、なぜなぜ分析も併用しながら深掘りします。
なぜなぜ分析と特性要因図の使い分けと組み合わせ
なぜなぜ分析は、比較的単純な因果関係を持つ問題や、特定された一つの事象を深く掘り下げたい場合に有効です。一方、特性要因図は、複数の要因が複合的に絡み合った複雑な問題や、考えられるすべての原因候補を網羅的に洗い出したい場合に有効です。
これらの手法は排他的なものではなく、組み合わせて使用することでより効果的な分析が期待できます。例えば、特性要因図で洗い出した要因の中から、特に重要と思われるものに対してなぜなぜ分析を適用し、さらに深掘りするといったアプローチが考えられます。
失敗分析から学びへの橋渡し
根本原因を特定することは重要ですが、それだけで終わっては意味がありません。特定された根本原因に対して、具体的な改善策を立案し、実行し、その効果を評価するプロセス(PDCAサイクルなど)に繋げることが不可欠です。
チームでの失敗分析をより実りあるものにするためには、以下の点も考慮する必要があります。
- 心理的安全性の確保: 失敗を正直に報告し、分析に参加できるような、非難のない心理的に安全な環境を構築します。失敗は学びの機会であるという文化を醸成します。
- 分析結果の共有とナレッジ化: 特定された根本原因と対策、そこから得られた学びをチーム内外に共有し、組織の知識資産として蓄積します。ナレッジベースや共有ドキュメントなどを活用します。
- 予防への応用: 特定された根本原因から、将来同様の失敗が発生しないようにするための予防策や仕組みづくりを検討し、実施します。
結論:体系的な分析で失敗を成長の糧に
日々の業務で発生する失敗は、適切に分析し、根本原因に対処することで、チームや組織を強くする機会となります。なぜなぜ分析や特性要因図のような具体的な手法は、失敗の深層に迫り、真の課題を特定する強力なツールです。
これらの手法をチームで実践する際は、ツールの使い方だけでなく、心理的に安全な環境づくりや、分析結果を学びと改善に繋げる後続プロセスまでを視野に入れることが成功の鍵となります。
失敗を恐れず、それを成長のための貴重なデータと捉え、体系的な分析を通じて継続的なカイゼンに取り組む姿勢こそが、チームの持続的な発展を支える力となるでしょう。